じょうしき

ある山にお坊さんが住んでいた。

勉強も修行もよくなされた方で、そのためか仏様が姿を現すようになった。

ある日近在の猟師が喜捨に来ていたが、お坊さんは仏様の事を話し、一緒に拝まないかと誘った。

猟師はそれはありがたい事ですと承諾し、その晩は寺に泊めてもらう事となった。

夜になって仏様が姿を現し、お坊さんは伏し拝み経を唱えた。

しかし猟師はやおら立ち上がり仏様に対し矢を放った。

轟音と共に仏様は消え、猟師の無法をなじるお坊さんに対して猟師はこう言った。

「徳の高いお坊さんの前に仏様が現れるのなら分かります。しかし自分は無学の俗人で、かつ殺生が生業

です。」

「命を奪うという事は仏様の忌み嫌われる事です。」

「だからこんな私の前に仏様が現れるはずなどありません。それが現れた以上あれは化け物です。」

夜が明けると、胸から血を流して死んでいる大狸が見つかった。

                                  -小泉八雲「常識」


自分は殺生を生業とする人間だから、仏の救いから外されて当然。そんな卑しい私の前に現れる以上、そ

れは化け物だと確信を持って弓を引く。

この猟師に学問はないけど、常識=世間知を持ってる。

だからこそ本当が見えたということか。

さいきんは、こうした世間知を持って自信に満ちて生きている人を見かけることも少なくなった。


ところで、「一般教養」って何?