じょそう

へえ、やったことありますで女装。

むかし事務所借りてたビルの近くでよう見かけたんです。女装した人。

だいたい土曜日の夕方でしたけど、どっかから現れて、あるビルの前で写真とって、またどっかに帰って

ましてん。

気になるから確かめたんです。ほんなら、ワシのとこのビルの隣のビルにあったんです女装専門店が。


女装したオッサン(多かった)は、なんちゅうんですか?男であることはよう見たらわかるんやけど、不

思議な雰囲気があったんです。雑居ビルの多い街を、侍の格好とか、裸で歩くとかそんなんと違いますね

ん。言うたら、周囲と反撥し合ってるいうかそんな感じがしましたんや。


ワシは【うれしがり】です。あっ、【うれしがり】って調子者とかそんな意味です。

これ一回試して見んとアカンなぁ思いまして、行きつけの飲み屋で<女装の宴>企画して、店の常連のア

ホアホ連中と女装専門店に行ったんです。


女装が始まると、みんな顔つきが変わり始めて、ノーミソまで変身したかのような感じで恍惚としてま

す。目ェ見たらわかります。この目つきは絶対に行く前に飲んだアホの三杯酒のせいちゃいます。

総勢6名。女装完了で飲み屋までを練り歩きましたがな。700㍍くらいやったと思います。

普通の人も、怖い人もみんな道を譲ってくれます。

ワシらを見てる人の表情いうたら<虚をつかれる>ってこういう意味かって顔してましたなぁ。

大工の棟梁は完全に入っている。ぜんぜん違う人間になっている。

履きなれないヒールで転んだりもしたが、いつものようにドアホ!とか声を荒げる事もせえへん。


飲み屋についてから、その格好で宴会が始まったんです。

仕草は女装のせいでおとなしかったりしますけど、飲むペースはいつも以上だ。

ある社長は店からホステスを呼んで「どや!どや!」叫んでる。

絶対に酒ではない酔いが入っているのは間違いなかった思います。

当然ですけど、後から来た客はビックリして帰ってしまうので貸切状態だ。まぁ、店主も参加しとったか

らかまへんかった。とにかく異常に盛り上がりました。


後で女装する動機いうかそんな記事読んだら、ストレス発散というのがいちばんの理由にあがってた。

何となくわかるような気もする。

けど、もっと複雑です。

今までの自分+女装した自分+女装した自分を見ている自分なんちゅうのが必死で争ってるんです。

そやから、なんかのタイミングで女装した自分に心が落ちたら抜けられへんと思うたりした。

おそらく、あのとき女装した中でそんなことになったのが一人はおると思う。

ワシはその頃はもう、自分大好き人間になっとったんでシャレで済んだんやけど。


こんな気持ちの在り様をキチンと書けたらええねんけど、その才能はないから経験したことだけ書いとき

ます。


そんな昔のアホ話でした。