帰 郷 者

 
伊藤静雄に『帰郷者』がある。

伊藤静雄は好きだ。

顔は、kobatyouさん曰く<パ・リーグの二軍のバッティング・コーチ>みたいではある。



で『帰郷者』。

青空文庫』にあったので。

   自然は限りなく美しく永久に住民は

   貧窮してゐた

   幾度もいくども烈しくくり返し

   岩礁にぶちつかつた後(のち)に

   波がちり散りに泡沫になつて退(ひ)きながら

   各自ぶつぶつと呟くのを

   私は海岸で眺めたことがある

   絶えず此処で私が見た帰郷者たちは

   正(まさ)にその通りであつた

   その不思議に一様な独言は私に同感的でなく

   非常に常識的にきこえた
 
   (まつたく!いまは故郷に美しいものはない)

   どうして(いまは)だらう!

   美しい故郷は

   それが彼らの実に空しい宿題であることを

   無数な古来の詩の讚美が証明する

   曾てこの自然の中で

   それと同じく美しく住民が生きたと

   私は信じ得ない

   ただ多くの不平と辛苦ののちに

   晏如として彼らの皆が

   あそ処(こ)で一基の墓となつてゐるのが

   私を慰めいくらか幸福にしたのである

   
    同反歌


   田舎を逃げた私が 都会よ

   どうしてお前に敢て安んじよう

   詩作を覚えた私が 行為よ

   どうしてお前に憧れないことがあらう


どうして(いまは)だらう!

月末の短い旅でそう思った。


不義理の上に不義理を重ね、ついには故郷と縁の切れた人。

その人のお気に入りの服の切れ端を故郷の墓の近くの土に埋めてきた。


その事を結局は【母の聖性】のような手垢のついた言葉でしか話すことが出来ない。

そんな自分の非力を強く感じている。




そうではないのだ。





そんだけ。