外 出

 
天六で降りて商店街を歩く。

この商店街を歩くのも久し振りのこと。


<饂飩は足踏み、削り節は手で削る>という看板が目に入った。

この頃は、こんなんが多すぎる。

好きな娘を前に「僕は頭がいいねん」とか「僕は社長やねんど」なんて言ってるのと一緒や。

だから、どうやねん?

好きなら好きと言わんかい。

足で踏もうが、手で削ろうが、どっちゃでもええ。

旨いなら旨い!と書かんかい。

・・・まあ、自信のある店は屋号だけで勝負するけど。


関係ないけど、「手間賃」という言葉が死語に等しい状態だ。

素材が何であろうと、作る者が何者であろうと、作った物に対して「手間賃」を払っているという感覚で

ここまでを生きてきたので、「こだわり」やとか「厳選素材」やとか「秘伝の何たら」に金を払いたくも

ないのだ。


ホンマに久し振りに、無理矢理時間を作って電車に乗って出かけているので、ほとんど人生幸朗状態になって

もうてる。


天神橋の長ぁ~い商店街をボヤキながら突き進み、ようやく目的地に。入り口に喫煙スペースがあったの

で、とりあえず一服。


ん?<すべらんうどん>?


たしかに、ここは大阪天満宮(天満の天神さん)やし、合格祈願はわかる。

そやけど、<すべらんうどん>ってネーミングがスベッテル気がせんでもない。

まぁ、ええか。


そうそう、無理矢理時間を作って何をしに出かけたかを話してなかった。

じつは大阪天満宮で【第5回天満天神梅まつり古書即売会】をやってるのだ。

ここと、四天王寺の青空古本市は可能な限り出かけることにしている。


とくに探している本があるわけでもないし、価格に惹かれてでもない。

本に関しては、高い安いでなく、買えるか買えないかの判断しかない。

ようするに古本市はオッサンのデズニー・ランドなのだ。あえてデズニーね。


何冊か買った。


きだみのるの『気違い部落周遊紀行』は冨山房百科文庫にあり、とくに手に入りにくい本でもない。

けど、今日800円で買ったのは、昭和23年に吾妻書房から発行されたものだ。12月20日が初版で、今日

買ったのは12月25日の四刷版。

この間に「毎日出版文化賞受賞」があるわけで、増刷の勢いで当時の評判もなんとなくわかる。


持ち主は几帳面なひとだったのか、腰巻きまで残してくれている。


   日本の文學が持った初めての明るさ!
   様式の清新さ!
   慧智と、モラルとヒューマニズムとが、警抜な諷刺と軽快な諧謔と交響する異色の作風は
   遂に現代文學の最高水準を抜いた!


なんて書いてある。

ちなみに発売時の定価は180円。


本は紙も悪いこともあって(何しろ昭和23年)ボロボロだ。

読むなら富山房の方が読みやすいだろう。その後の本書に対する評価や注釈も充実してるだろう。

けど、骨董好きな人が何百年も前の椀に酒を注ぎ、その時代の人達と酒を酌み交わすことが出来るよう

に、出版された時の本には、その時代を感じるのだ。



そんだけ。