かばねやみ…辻潤

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  かばねやみ
 
  港はふける ルンペンの

  のぼせあがった たくらみは

  わらで束ねた干し鰈

  犬にくわせて酒を飲む

  むこう遥かに沖見れば ばかに大きなお月様

  丸い顔して薄化粧 商売なれば是非もなや

  やくにも立たぬこのからだ

  抱いてねたとてなんとしょう

  うそで固めた章魚(タコ)の骨

  ねッから御役に立てばこそ
 
  そこはかとなく吐く息は

  われにもあらぬ蜃気楼

  労して功なく立ち消えて

  手も足も出ず白波の
 
  かなたにこそは失くせにける―


昭和9年(1934)の作品です。

写真は、昭和18年11月、中西悟堂邸でのもの。亡くなる一年前になる。