魚
いつからやったか忘れるくらい久し振りに、一人暮らしやってます。
わずか一週間のことやけど。
この際やからと、どっかで腹一杯飲んでやろうとか、なんぞ美味いもん食うたろとか、街に出てオネイサ
ン追っかけようとか、そんな気持も全然なくて、ボォ~としとります。
ボォ~としてるのが気持エエというのは、いろんな事に諦めがついて、なかなかの歳の取り方しとるなぁ
と思わんでもないです。
ついでに、淋しいは、生きる前提や思うてるから、一人でいることは何とも思わんです。
発作的に思い出したんで、長いこと出してなかった石を押入から引っ張り出してきた。
もう30年くらい前に、山から持って帰ってきた石。
重さにして3㎏はあるなぁ。
もう少し可愛げにあるのにしたらよかったかも知らんけど、これが気に入ったから持って帰った。
ずいぶんとビンボーこじらせて、いろんなもんを処分したときも、この石だけは引取り手もないし、捨て
るわけにもいかんかったので、生き残ってます。
人によって違うのやろけど、私は石や石ころを相手にしてると気持がエエです。
相手がニンゲンやとニンゲンの土俵に上がらなアカンし、犬猫も気ぃ使います。
石やと、そんなことは気にせんでもええし、何より自分がニンゲンであるということも無視出来ます。
昔から、この石を磨きながらボォ~としてましたので、ツルピカになってます。
ワテの頭も誰か磨いてくれたんやろか?
それはともかく、しばらくは、この石を前に置いて酒でも飲んだろ思うてます。
そんだけ。
魚 あるところで 魚が泳いでいた それは海でも山でも川でも その他の水の中でもなかった そこは 石の中であった 化石した魚は 石もろとも泳いでいた 背骨だけ残って 肉は消えていた 億年のあいだ 石の平面は保たれたが やがてその線も失せるだろう 現象は至るところで ピシピシ切り放せる われらの記憶の中でだけ 魚は鰭をうごかして 泳いでいる -高橋新吉『残像』より