どうでもよくないこと
この歳になると、どうでもいいことは、ホンマにどうでもよくなった。
そやから、少しは具合もようなった気もする。
さびた十円玉をにぎりしめた汗が金属質に匂う温かさ
ははのちちさんは、そう書いてはった。
ずっと前、オカンが気まぐれに百円硬貨をくれたことがある。
兄弟もいないわけではなかったけど、夜の11時くらいまで独りやった。
手の中に握りしめた百円の行方は覚えてない。
無欲で金を握りしめたのは、あの時だけやった。
握りしめてた百円は、ぜんぶやった。
人の体が、頭と胴体と手足からなっているという意味でなくて、ぜんぶやった。
丸ごと、ぜんぶやった。
私に、どうでもよくないことは、あの握りしめた百円硬貨の記憶以外に何もない気がする。
たわけたまま55番目の秋。
そんだけ。