悪い記憶

爺さんの「記憶」ということについては何度か書いた。



●「忘れていくということ」→http://blogs.yahoo.co.jp/tei_zin/30939236.html


ほんでも、これは私からの話であって、当人には何の関係もない。


年末から爺さんは、さらに一歩踏み込んだ状態にある。


ここまで生きてきて経験した、恨み、悲しみ、辛さを延々と一日中話し出したのだ。

喜びの記憶は全く出てこん。


家にはもう一人ビョーキ男がいるが、こいつはそれに耐えきれないので爆発する。

ビョーキ男には、私のように壁にストレスを解消するという悪知恵などないのだ。


ところで、私は認知症だとか病気のことはサッパリわからん。

むしろ、老いるというのはそんな具合なことやと思うてる。


爺さんは、棺桶に半分足を突っ込んでいるのは間違いないが、まだ、こっち側の世界で生きている。

 
 ・・・ん?人間だれもが、生まれた時から半分足を突っ込んでいるのか。


そんなわけで、爺さんは残り少ない記憶で、この世で生きる為の摺り合わせをしているのだ。

頭はそんな具合やけど、体はまだ生きていくつもりなのだ。

死ぬまで生きるという当たり前のことをやってるだけなのだ。


記憶が消えていくということは、この世での自分の位置を確認する、自分なりの地図が、日々真っ白けに

なっているということだ。

で、爺さんの場合は残っている地図=記憶が「悪い記憶」だけになっている。

だから、その「悪い記憶」を頼りに、この世との摺り合わせをしているのだ。

91年間生きてきて、わざわざそんな記憶を頼りにしないと、自分がどこにいるのかわからなくなってい

るのだ。


最期の最期まで、貧乏クジ引いている人ではある。

この爺さんの血を受け継いでいると思うと、私の最期も似たようなもんになるやろ。


「悪い記憶」だけが残る。

それは、爺さん自身がとても辛かったり、怖かったりすることや思う。

アホ息子にも、それくらいはわかるので、そんな爺さんが可哀相や思うたりする。

あんまりなんで、酒飲んだりもする。


時々「もっと明るい思い出を教えて」などと言う奴もいるけど、爺さんは必死ぶっこいて残りモンの記憶

で、自分を紡いでいるのがワカランのか!と腹も立つし、悲しくなったりもする。


ほんまの所は、爺さんが私に関する情けない記憶だけ消してくれたら、大変うれしい。

そうはいかんかなぁ。

無理かなぁ。

・・・アカンやろなぁ。


そんなことで、少し環境をかえてやる必要が生まれたので、ますます忙しくなる。

見届け人稼業は、売上ないけど忙しい。



そんだけ。