『あなたはわたし』 富士正晴

 
わたしならわたしが生きてるうちは、この体はたしかに私のものや。


けど、わたしが死んだら、その死体はわたしのもんでも何でもありませんので、そこいらにおいとくと見


苦しゅうなるから片付けんならんだけですわい。


ところが牛や豚や鶏の死体となると、これは人間の持ちものや。何やしらんヤヤコシイことになって来ま


すで、先生。


人間が自分の死体をこれは自分のもんやといおうとするのには、ほう、どうしても死んで残る魂いうやつ


がないと都合が悪い。


なるほどそうなるわ、人間ちゅうのはよくよく未練がましいものですなあ、先生。


死んだ後まで、何とか生きてることになりたいんや。


               ・・・・・富士正晴 『あなたはわたし』より



ほな。