桶屋

少し前に、用事があって育った街を歩いた。

多くの工場は移転し、残った所も24時間操業は昔の話し。工場の操業にあわせて賑わっていた駅前の飲

み屋街も、昼は閉めている店の方が多くなっている。

飲み屋のほとんどが24時間営業だった頃、キャバレー周りの演歌歌手がマネジャーと一緒に食事をしてい

るところを呼びに行かされたこともあった。

この女の人、近所のおばちゃんと一緒の匂いしかせえへん。そんな事を思ったりした。


商店街。飲食店や百円均一。チェーン店が目立つ。

地の店がなくなり、大手のチェーン店が入るのはやむを得ないのかも知れんけど、モノとカネが地場で回

らんゆうことやから、そういう店が目立ってくると商店街は寂れてくる気がする。


昔はああやった、こうやったって懐かしがるつもりはない。

街全体が上昇志向の塊だったようなギラギラはない。ネポン街の朝の様に疲れた街になってる。

商店街を抜けて路地に入る。昔は川だった道がええ加減に曲がりくねってる。

川の近くに製薬業があるという歴史の記憶も薄くなっているように思う。


一つだけ残っている映画館の横を少し入った路地の一軒の桶屋。

有名、無名それは知らん。昔からず~っとおんなじや。

玄関を開けっ放しにした仕事場。作った桶がぎょうさんおいてある。

隣が餃子作ってるときも、美容院になっても、横が事業の失敗で黒いベンツが事務所の前に停まっていて

も、そこだけはいっつも一緒。


高校生の時、何を思うたか黒のダボシャツ着てヤクザ挑発して歩いてた時も、あの桶屋だけはおんなじや

った。

変らなアカン思うて、動き回っとった。

ほんでも

何十年も同じ姿勢でいることが、どれほどの力がいるか?

いまごろわかった。