旅 愁

少し前に、辻潤林芙美子の関係というか、そんなのを書いた。

『腐っても鯛~林芙美子辻潤の事をそう云った』→http://blogs.yahoo.co.jp/tei_zin/14148746.html

ただ、これは林芙美子が流行作家となって以後のいきさつでもある。

それなら、辻潤林芙美子のどこを気に入っていたのか?


旅愁」。『放浪記』の書き出しはこの歌で始まる。

   更けゆく秋の夜 旅の空の
   わびしき 思いに ひとりなやむ
   恋しやふるさと なつかし父母

しかし、最後の歌詞は書かれていない。これは、林芙美子が意図して引用しなかったと思っている。

最後の歌詞はこんなのだ。

   夢路にたどるは 故郷(サト)の家路


パリ滞在中に、辻潤・まこと親子がパリまで行きながら宿に籠もって読んでいた小説がある。

中里介山の『大菩薩峠』だ。

辻潤がのめり込んだこの小説の根っこは、間の山のお君が歌う歌にあると思う。

こんな歌だ。

   夕べ明日の鐘の音
   寂滅為楽と聞こえども
   聞いて驚く人もなし
   花は散っても春に咲く
   鳥は古巣に帰れども
   行きて帰れぬ死出の旅 


林芙美子が『放浪記』冒頭で意識的に最後の歌詞を割愛した「旅愁」と同じトーンだ。


そんなふうに思ったりした。