富 山 唯 継

きょう、1月17日は『金色夜叉』の中で、主人公の寛一が熱海の海岸で、貫一を裏切った恋人のお宮に

いいか、宮さん、一月の十七日だ。来年の今月今夜になつたらば、僕の涙で必ず月は曇らせて見せるから

と言い放った日なのだ。

この日の夜が曇り空になることを「貫一曇り」と言うそうだ。今日の大阪はそんな天気だ。


昨年末に、いつものKBS京都の「中島貞夫邦画指定席」で『金色夜叉』を観たりした。

1954年の大映映画で監督は島耕二(よく知らんです)、山本富士子のお宮に根上淳の寛一だった。

映画の方の結末は、宮の死によって、貫一は自分が金の為に大切なものを失った事を悟り、失神してい

る宮の名を呼んで許しを乞うという場面で終わる。

ネットで見てみたら、これより前の松竹の映画化では、金の亡者となった貫一が、無一文となったお宮

にひどい捨て台詞を残して去っていくという場面で終わっているらしい。


原作のほうだが、これは未完のままだ。途中で尾崎紅葉は亡くなったりしている。

原作は、前編・中編・後編・続金色夜叉・続続金色夜叉・新続金色夜叉までで書き続けられたが、紅葉

の死で未完となっている。

金色夜叉』は、今の若い人はどうかは知らんけど、私は原作を読んでもないのに、勝手にノーミソに

刷り込まれてしまっている。

金色夜叉』という言葉に反応して、頭の中でこの歌が聞こえてくる。

    ♪   ♪   ♪   ♪   ♪

  1・熱海の海岸を散歩する 貫一お宮の二人連れ 共に歩むも今日限り 共に語るも今日限り
 
  2・僕が学校おわるまで 何故(なぜ)に宮さん待たなんだ 夫に不足が出来たのか さもなきゃお
    金が欲しいのか

  3・夫に不足はないけれど あなたを洋行さすがため 父母の教えに従って富山一家に嫁かん

  4・何故(いか)に宮さん貫一は これでも一個の男子なり 理想の妻を金に替え 洋行するよな僕
    じゃない
 
  5・宮さん必ず来年の 今月今夜の此の月は 僕の涙で曇らして 見せるよ男子の意気地から
 
  6・ダイヤモンドに目がくれて 乗ってはならぬ玉の輿 人は身持ちが第一よ お金はこの世のまわ
    り物
                     
  7・恋に破れし貫一は すがるお宮を突き放し 無念の涙はらはらと 残る渚に月淋し

               …【新金色夜叉】作曲作詞・宮島郁芳  (※日本流行歌史による)


ようするに、この歌の文句で知っているに過ぎないのだけど、『金色夜叉』はそういう小説だというこ

とになってしまったのだ。


・・・宮、おのれ、おのれ姦婦、やい! 貴様のな、心変をしたばかりに間貫一の男一匹(いつぴき)は

な、失望の極発狂して、大事の一生を誤つて了(しま)ふのだ。学問も何ももう廃(やめ)だ。この恨の

為に貫一は生きながら悪魔になつて、貴様のやうな畜生の肉を啖(くら)つて遣る覚悟だ。富山の令…

…令夫……令夫人! もう一生お目には掛らんから、その顔を挙げて、真人間で居る内の貫一の面(つ

ら)を好く見て置かないかい。長々の御恩に預つた翁(をぢ)さん姨(をば)さんには一目会つて段々

の御礼を申上げなければ済まんのでありますけれど、仔細(しさい)あつて貫一はこのまま長の御暇(

おいとま)を致しますから、随分お達者で御機嫌(ごきげん)よろしう……宮(みい)さん、お前から

好くさう言つておくれ、よ、若(も)し貫一はどうしたとお訊(たづ)ねなすつたら、あの大馬鹿者は一

月十七日の晩に気が違つて、熱海の浜辺から行方(ゆくへ)知れずになつて了つたと・・・(原作より)


これは金色夜叉、【金】と【色】の夜叉となった男の話と思ったりする。


じつは、今日にも記事を書こうと読み続けてきたのだけど、読み終えることはできなかった。まだ『新

金色夜叉』までしか読めてない。

金色夜叉』全編(もちろん、未完だが)は青空文庫で読めます。

おもしろいですので、ぜひ→http://www.aozora.gr.jp/cards/000091/card522.html


金色夜叉』は当世活写真のキャッチが使われた小説でもあるそうで、たしかに当時の暮らしぶりが克

明に描かれております。

話は箕輪の歌留多会から始まります。富山唯継が鴫沢宮を見初めた場所であり、物語のはじまりです。


・・・箕輪(みのわ)の奥は十畳の客間と八畳の中の間(ま)とを打抜きて、広間の十個処(じつかし

よ)に真鍮(しんちゆう)の燭台(しよくだい)を据ゑ、五十目掛(めかけ)の蝋燭(ろうそく)は沖の

漁火(いさりび)の如く燃えたるに、間毎(まごと)の天井に白銅鍍(ニッケルめつき)の空気ラムプを

点(とも)したれば、四辺(あたり)は真昼より明(あきらか)に、人顔も眩(まばゆ)きまでに耀(か

がや)き遍(わた)れり。三十人に余んぬる若き男女(なんによ)は二分(ふたわかれ)に輪作りて、

今を盛(さかり)と歌留多遊(かるたあそび)を為(す)るなりけり。


しかし<富山唯継>・・・エエ名前やなぁ。