「消えて行く人たち」
それで思い出したのだけど、これが収録されている、深沢七郎の『流浪の手記』はいい本だ。
たしか、詩人の白石かず子も好きな一冊にあげていた覚えがある。
そんなことは書かなくてもよかった。
とにかく私は好きでしばらく手元に置いてた。ずいぶんと前の話だけど。
で、どうしても読みたくなったので、歩いて五分の図書館から借りてきた。
『流浪の手記』の中の『消えて行く人たち』はこんな事が書いてある。
「生きているということは、ほかの人の死ぬのを知ることなのだ」とさえ思うのである。 人の死ぬのは、ちょうど、木になっているカキの実が盗まれていくように、ポツン、ポツンと気が ついたらなくなっているのである。 「ああ、あそこになっていたのに」と、むしられてしまったカキの実のように、いつのまにか視界 から消えてしまうのである。 <略> ことしは正宗白鳥も死んだ。だれだれ「は死んだ」でなく、だれだれ「も死んだ」のである。 死ぬということは、そんな当たり前のことなのである。 正宗白鳥はマリリン・モンローとはちがって、老いて、病んで、骨と皮ばかりのようになって死ん だ。シャバのできごとの悪口を言って美しいことを暗示しようとしたらしい。 マリリン・モンローは美しいものを自分の身体から現わすことを発見したのだが、正宗白鳥は美し い事を捜していたらしい。 美しい「物」でなく美しい「事」だったらしい。 二人ともその一生は聖者の行進のように私は思えるのである。 -『流浪の手記』深沢七郎より
そんな深い意味はないけど、入院中のオカンの横で、こんなのを読んでいると、いろいろなものが静かに
なっていくような気もする。
そんだけ。