酒と辻潤
「宮嶋君も、思い切って坊主になった。生田君も、思い切って自決した。悲愴だ、ヒロイックだ。二人と
も、僕なんか、とうては及びもつかない熱情をもっている。」。そんな事を書いてます。
そして、自分は「酒が好きだし、おふくろやこどもがいる間は、とにかく生きなければならない」なんて
書きながらも、「諸行は無常だ。自然は、まことに残酷だ。考えると、飲酒は、もっとも狡猾にして、カ
ンマンな一種の自殺だ」と告白めいたことも書いたりしてます。
さらには「芥川君の死んだときも、平常、彼が辻潤とでもつきあって、酒でも飲んで馬鹿々々しいことで
も話し合っていたら、死なずにすんだにちがいない、などと考えた。春月君も、もう少し晩年辻潤と酒で
もしばしば呑んで、不純な気持ちを訓練したらもっと生きていたかも知れん。しかし、どっちがいいかわ
るいか、それは僕にはわからん。どっちでもかまわん」と書いて終わってたりします。
辻は「酒でも飲んで、バカバカしい話をしていたら自殺などせずに済むであろう」と言ってますけど、当
たり前だけど、自殺しようなんて人は、酒でも飲んでバカバカしい話が出来ない人です。
たぶん辻は、絶望なんてものを、酒によって酔いに変換できれば、それはそれでいいのではないか?そん
な事を書いたのではと思ったりします。
いずれにしろ、辻潤自身は「狡猾」な酒によって「カンマン」な自殺を遂げたような按配です。
辻は、酒はあまり強くなかったようで、少しの量ですぐに酔うのですが、そこから延々と続くような酒だ
ったようです。
古い芸人で、三味線漫談の、柳屋三亀松という人のお得意で、こんなのがありました。
♪寝ていて 小便してみたい♪寝ていて 小便してみたけれど 端で見るより楽じゃない♪
辻潤の「酒」はこんな具合だったように思います。
そんな話でした。